映画「MINAMATA」 ネタバレあらすじ感想 ジョニー・デップが世界に伝える水俣病とは

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ジョニー・デップがプロデューサーを務めたことでも話題になった「MINAMATA」を観てきました。

この映画は1950年代に問題になった熊本県水俣市での「水俣病」を描いています。歴史の教科書には必ず載っていて、テストにも良く出ていたので、病名自体は知っている方も多くいるのではないかと思います。

教科書ではたった一行で終わってしまうこの「水俣病」とは一体何だったのか。
世界中に水俣病を広めるきっかけを作った伝説の写真家ユージン・スミスの写真活動からその実態を紐解いていく作品です。

重厚な社会派作品として作られた本作は、日本人が一度は観ておくべき映画だと思いました。

あらすじ

1971年、ニューヨーク。アメリカを代表する写真家の一人と称えられたユージン・スミスは、今では酒に溺れ荒んだ生活を送っていた。そんな時、アイリーンと名乗る女性から、熊本県水俣市にあるチッソ工場が海に流す有害物質によって苦しむ人々を撮影してほしいと頼まれる。水銀に冒され歩くことも話すことも出来ない子供たち、激化する抗議運動、それを力で押さえつける工場側。そんな光景に驚きながらも冷静にシャッターを切り続けるユージンだったが、ある事がきっかけで自身も危険な反撃にあう。追い詰められたユージンは、水俣病と共に生きる人々にある提案をし、彼自身の人生と世界を変える写真を撮る──。(HPより抜粋)

以下、ネタバレ含みます。

改めて、水俣病とはどんな病気だったのか

本作「MINAMATA」をより深く理解するためには水俣病がどんな病気であったのかを改めて振り返ってみるのが良さそうです。

水俣病は、工場排水中のメチル水銀に汚染された魚や貝などの海産物をヒトが経口摂取したことによって集団発生したメチル水銀中毒の公害病です。空気や食物を通じてうつる伝染病ではなく、遺伝することはないようです。
1956年に熊本県水俣市で公式確認され 1958年頃から「水俣病」の名称が使われ始め、1968年に国がチッソ株式会社による公害病と認めました。体内に入ったメチル水銀は、主に脳などの神経系を侵し、手足のしびれ、ふるえ、脱力、耳鳴り、目に見える範囲が狭くなる、耳が聞こえにくい、言葉がはっきりしない、動きがぎこちなくなるなど様々な症状を引きおこします。
見た目にはわからなくても、頭痛や疲れやすい、においや味がわかりにくい、物忘れがひどいなどの症状で、日常の暮らしに困る慢性型の患者もいます。汚染された魚を食べた母親の胎内でメチル水銀に侵され、障害を持って生まれた胎児性水俣病患者も発生しました。

「MINAMATA」で描かれる「入浴する智子と母」の写真の智子さんもこの胎児性水俣病のようですね。
改めて水俣病について調べてみると知らなかったことも多くあり、こんな歴史的な背景があって起こった病気だったのかととても勉強になりました。

(1)徹底したドキュメンタリータッチ

本作では最初から最後までドキュメンタリーという形を崩さずに物語が進んでいきます。過剰なフィクション描写をやめ、淡々と公害問題を描いていきます。

実際に当時の水俣病患者の写真や映像、ユージン・スミスが写真を撮りに行った第二次世界大戦時の映像も使われていて当時の情景が物語ではなく現実の歴史として想像しながら映画を観ることができました。
公害という重いテーマを扱っているので当時の水俣市へ想いを馳せながら観ることができたのはとても観やすかったです。

ドラマチックな展開もあるのですが、ほとんどが事実に基づいて描かれているようです。水俣病患者の抗議活動で株主総会に乗り込みリーダーがチッソの社長の前にあぐらをかいて問い詰める場面やユージンが子供にカメラを教える場面も実際の出来事のようです。

ただ、恐らく日本の問題だと思いますが、一つ大きなフィクションはあって実際に映画が撮影されたのは日本ではなく、セルビア・モンテネグロだったみたいですね。
浅野忠信や國村隼、真田広之など錚々たる日本人キャストが出演していますが、みなセルビアに行ってロケを行ったようです。あからさまなCGや合成を使用していない点もドキュメンタリータッチにマッチしていて映画に入り込みやすかった点でした。

チッソへの抗議のシーンではエキストラも数多く登場していますが、これもみな日本人でどうやって集めたのかと気になりました。全員日本から連れて行ったのか現地の日本人をかき集めたのか。
ただ、割とスモーク(煙)や群衆の音、望遠のレンズで実際には数十人で撮影されていた印象はありました。少ないエキストラを多く見せる方法として多用されるやり方です。

そして、写真家にフォーカスした作品とあって映像美にもかなりのこだわりを感じ、象徴的なカットがいくつもありました。アンドリュー・レヴィタス監督、そして撮影監督のブノワ・ドゥロームも写真的なカットを撮ることに非常に優れたアーティストなのだと思います。実際、今回の作品のテーマに合わせてかなり写真的なカットを撮ることを意識しているのではないかと思います。

世界的に水俣病が知れ渡るきっかけとなった写真「入浴する智子と母」の完全再現しているシーンは圧巻の一言。あのシーンを観るだけでもこの映画を鑑賞する価値があると思いました。「入浴する智子と母」のシーンはこの映画のクライマックスでもあり、もちろん映画なので写真ではなく撮影の前後を映像で表現されています。圧倒的に美しいシーンは是非スクリーンで観てほしいなと思いました。

また、ラストカットで映し出されたユージンと妻のアイリーン、智子の両親である上村夫婦の和室での1シーンがあまりに象徴的で美しく、映画史に残るラストカットだと思いました。

「入浴する智子と母」

(2)ユージンの再起の物語

本作の序盤で描写がありますが、ユージンは水俣病を撮影するまでアル中で薬物中毒な、廃人として登場します。輝かしい歴史を作ったライフの編集長にまで煙たがられ子供たちにも会ってもらえない悲惨な状況でした。

さらに過去には第二次世界大戦を日本側で撮影を行なったことで、戦争を目の当たりにし、トラウマとなりPTSDにも苦しんでいました。
ユージンは廃人で仕事をしていないので養育費も払えずダメな父親として描かれています。

この「MINAMATA」はユージンがまともな人間になるための再起と復活を描いたユージン個人の物語でもあります。

ユージンはアイリーンの説得で水俣へ3年間生活し、水俣の人たちと生活を共にしながら写真を撮っていくことになります。最初は水俣の真実を告発することにあまり乗り気ではなかったユージンですが、水俣で暮らすことで、公害の事実を深く知り被写体と心から繋がり、生活を一緒に送ることで、次第に写真家としての自信を取り戻していきます。

自分には写真しかない、世界に水俣を知らしめることが自分の存在意義なのだと、徐々に強く認識していきくのです。その繊細な描写とジョニー・デップの演技は素晴らしいものがありました。
水俣病を通して写真家としての自信を取り戻したときに、ユージンはキャリア最高の写真を撮ることができたのです。

残念ながら、アイリーンとは数年後に離婚しユージンも工場との抗議活動時に負った怪我がきっかけで1978年に亡くなってしまいます。
死の間際には最高の仕事ができたことで自信を取り戻し、安らかに眠ったことを祈るばかりです。

(3)観るべき映画・作るべき映画・伝えるべき映画

映画とは何のために作られているか、改めて水俣病とともに映画の意義を少し考えてしまう作品でもありました。

アクション映画、恋愛映画、SF、バイオレンス、ホラー、戦争映画、と映画のジャンルは数多くありますが、「MINAMATA」のように事実に基づいて世界中の公害問題を広く知ってもらうために製作された本作はとても価値の高い映画です。

この世に存在する映画というメディアには、やはり観るべき映画、作るべき映画、伝えるべき映画というのが存在するんだなと改めて思わされました。
エンタメ作品も勿論好きですが、こういった世界の痛みをきちんと丁寧に伝えてくれる作品もしっかり観ていきたいですよね。

「写真は撮られる者だけでなく、撮る者の魂すら奪う。」

ユージンは劇中でこのような言葉をアイリーンにかけます。アイリーンが水俣病をカメラで映す際、アイリーンと自分の覚悟を試すかのように。
この言葉はとても重いセリフでした。伝説的な写真家ユージンが言うから説得力と深みがある言葉です。

カメラマンとは映画や広告、MV、テレビなどなどたくさんいますが、ユージンのような写真家ほど魂を込めることはなかなか少ないのではないかと思います。それは、映像監督やプロデューサーもしかりですね。

現在、アイリーン・美緒子・スミスさんが言っているように、被写体と写真を受け止める側、両者への責任を果たす意味でカメラのシャッターを切り続けるユージンのようなカメラマンというのは現実にはかなり稀なことかもしれません。

映像を作る者としてもこの覚悟を持って被写体と接する人が実際にいるのだということを忘れてはいけない気がしました。ピュリッツァー賞を獲るような写真家や世界の真実を暴くことを原動力として動いてる人にはなかなか敵わないということを思い知らされた感じですね。。

まとめ

ラストのエンドクレジットには、これまでに世界各地で起きている人工的な公害による被害者がたくさん映し出されます。
水俣病に関しては本作で描かれた水俣病患者に対する十分な償いと謝罪が未だに政府として行われてないことが明らかになりました。

水俣病は歴史の教科書による1つの歴史として捉えてきましたが、実際にはまだ何も解決していなく、まだまだ世界中で同じことが起こり、真実を求めていく必要があるのだと思い知りました。

教科書では分からないことを伝えてくれる日本人なら観るべき映画の1つでした。

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