映画「DUNE/デューン 砂の惑星」 ネタバレ考察感想 SF映画史に残る傑作の誕生。後世に語り継がれるべき物語

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映画「メッセージ」でドュニ・ヴィルヌーヴ監督の存在を知り、あまりの傑作ぶりに思わず声が出てしまってから数年・・・過去作やそれ以降の「ブレードランナー2049」も観てきました。

DUNEの原作もデヴィット・リンチ版の映画も観ていませんが、ヴィルヌーヴ待望の新作ということで発表された時からめちゃくちゃ楽しみにしていました。

今回はDUNEについて、何も知らない知識ゼロ状態で観に行っているので、過去作と比較している人が多い中、無知状態で観た感想ということで読んで頂けると幸いです。(笑)

個人的にはクリストファー・ノーランの次のハリウッドを代表する映画監督だと思っています。作家性を存分に発揮しながら興行的・批評的にすべての成功を収められる監督は本当に世界でもわずかしかいない稀有な存在だからです。

それでは、IMAXレーザーで鑑賞してきたので感想を書いていきたいと思います!

とにかく物凄い映画なので観ていない方は是非!!

あらすじ

全宇宙から命を狙われるひとりの青年に、未来は託された——。
アトレイデス家の後継者、ポール。彼には「未来が視える」能力があった。宇宙帝国の皇帝からの命令で、その惑星を制する者が全宇宙を制するといわれる、過酷な≪砂の惑星デューン≫へと移住するが、それは罠だった…。
そこで宇宙支配を狙う宿敵ハルコンネン家の壮絶な戦いが勃発!父を殺され、巨大なサンドワームが襲い来るその惑星で、全宇宙のために立ち上がる——。(HPより抜粋)

以下、ネタバレ含みます。

(1)IMAXでこそ真価を発揮する圧倒的な映像美

まず本作を観たら一番最初に出る感想としてはやはり圧倒的な「映像美」です。ただし、後半の感想が長くなってしまったのでここはサラっと行きたいと思います(笑)

もはやこの映像美を観に行くために、お金をかけても全く損はないと思っています。映像で特に凄まじいのは、物語の舞台となる砂漠の世界です。砂の一粒まで見える映像技術には度肝を抜かれるはずです。

本作の最大の見どころでもある敵との戦闘シーンとサンドワームのシーンは、圧倒的な迫力に呼吸することすらためらってしまったほどです。

さらに巨匠監督に見られる傾向としてCGではなくなるべく実写撮影にこだわるという点があります。本作では実際の砂漠(ヨルダン)で撮影を行い、超巨大なセットを組んで撮影をしています。実写ならではの、圧倒的な画力を体験することができます。

恐ろしいほど1カットずつが美しく撮られているので写真や絵画の集合体を思わせられます。(映像とはそもそもそういうものなのですが)

そして本作はIMAXで上映されることを事前に意識されて作られています。
IMAXスクリーンでは、通常のスクリーンよりも縦横の比率が高く、監督が本当に収めたい映像が通常のスクリーンでは収まっていないということになります。
IMAXが近くになくて観られないという場合は仕方ないですが、IMAXか通常のスクリーンで観るか迷っている方は是非IMAXで鑑賞することをオススメします。

(2)賛否両論にハッキリと二分。MCUと新スターウォーズの功罪

前評判通り、個人的には映画史に残る傑作だと思っており、今後のSF作品やIMAX作品に大きな影響を与えることになる作品だと考えています。
しかし、意外にもSNSでの反応を見ると、絶賛コメントと否定コメントではっきりと二分している印象があります。
面白いことに絶賛した反応は僕のように、歴史的傑作として位置付けているコメントも多く見られる一方、批判コメントは鑑賞料金を返して欲しい、眠すぎると、ボロカスに叩いている人が多く見られます。(笑)

大きな理由はストーリーのテンポが遅く、ストーリー自体は大きな展開がなくSF映画に期待しているド派手なアクションシーンがないから、という点だと思います。

ただ、映画においてスローテンポは1つの特徴であり、映画史の中でも緩いテンポで進む映画は数多く存在します。
映画は元来、息遣いなど「間」を非常に大事にするメディアでもあるからです。

スローテンポで有名なのはテレンス・マリックや小津安二郎、是枝系作品などですかね。SF作品で言うと、「2001年宇宙の旅」は相当話のテンポが遅いです(笑)
邦画の恋愛映画とかは、映画的な間を結構大事にするのでスローテンポな作品も多くありますよね。
よってスローテンポ作品は普通に多くあり、それ自体は特に特殊な事でもなんでもないわけです。

さて、ここまで多くの「冗長でつまらない」という本作に対しての意見が多かった理由について、少し考えてみました。それは近年のMCU作品や新スターウォーズ作品(旧6部作は該当しない)によるSF映画の影響が少なからずあるのでは、と思っています。

もはや2010年代以後のSFの代名詞は「未知との遭遇」や「2001年宇宙の旅」ではなく、MCU作品や新スターウォーズ作品ではないかと思います。

特にマーベル作品は映画の大半はアクションバトルであり、展開や編集もかなり早く作られています。2時間の中で飽きる瞬間がなく、カットの変化も早く、物語はどんどん進んでいきます。

何十作品もあるMCUシリーズや新スターウォーズ作品で、早い展開のアクションバトルに完全に体が慣れてしまい、スローテンポのSF映画など、体が違和感を覚えてしまうようになっているのではという推測ができます。

MCUやスターウォーズのSF作品が世界の成功を収め、次々と作品が生み出されると、DUNEのような映像で語られるSF作品の減少にも繋がりかねないという、危うい功罪を孕んでいるわけです。

ちなみに、色々言っていますがMCU作品とスターウォーズシリーズは僕も大好きです(笑)

さらに、これはDUNEからは少し飛躍した話ですが、最近は映像の現場でもyoutubeやTikTokの出現で早いテンポの映像作りを意識しています。そうしないと溢れるほどある他のメディアに目を向けられ、視聴者に観てもらえないからです。

YouTubeなどは5秒でつまらないと判断されたら飛ばされてしまいます。そうした現代のいわば忙しさが、スローテンポに合わなくなっているという可能性は否めないかもしれません。

作品の世界観を表すテンポは好みの問題だと思うので、確かに好き嫌いが大きく分かれるポイントではありますよね。

(3)なぜいま、DUNEを作ったのか

ドュニ・ヴィルヌーヴはインタビューで、世の中が変革に向かう今こそ重要な作品だと語りました。1965年に書かれた小説の映像化を、しかもすでにデヴィット・リンチが失敗している作品を2021年になって再度作ろうとした理由は何だったのか。

原作を読んでいるわけではないですが、原作のテーマと紐付けてあくまでヴィルヌーヴ版DUNEの場合として考えていきたいと思います。

ジェームズ・キャメロンは『SF映画術』の本の中で小説版DUNEのテーマについて、こう触れています。
ちなみに、ジェームズ・キャメロンは「アバター」や「タイタニック」、「ターミネーター」を作った巨匠監督です。

「著者のフランク・ハーバードはおそらくムジャーヒディーンとソ連に対する彼らの闘争について描いたんだろう。正確な時期はわからないが、19~20世紀に砂漠のアラブ系遊牧民たちがソ連軍と争っていたのは確かだ。(中略)宇宙を舞台としたスパイス争奪戦が描かれているけれど、現実世界で言えば、メランジは石油かな。(中略)砂漠の惑星アラキスの原住民フレメンが、ムジャーヒディーン、つまり今でいうアフガニスタンの軍事的指導者、あるいはテロリスト的存在なんだ。」

「SF映画術」ジェームズ・キャメロン著

キャメロンが指摘するように、小説版DUNEとは、明らかに中東を意識した作品でソ連との闘争について描いたものだと明言しています。

そう考えてみると、色々なものが中東を彷彿とさせるメタファーとして浮かび上がります。まず舞台が砂の世界なので中東に多く存在する砂漠の世界観を意識しています。そして映画内で彼らが纏うスーツやヒジャブ(スカーフ)のような衣装はイスラム教徒の服装にそっくりです。

本作で重要なカギとなるスパイスも、オーニソプターを動かすための原動力として紹介され、スパイスを持つ者が世界を握ると紹介されており、ビジネスにも利用されていることから「石油」であることが推測できます。これは石油を巡る物語でもあるのかと、本作の深みと面白さがここで一気に増してくるわけです。

石油を巡っては現実の世界でも石油の価格で今も常に争っていますよね。自動車や飛行機、ストーブに使う燃料など、生活に必要不可欠な石油を手にした国が世界の覇権を握ると言っても過言ではありません。
さらにフレメンたちがじっと砂の岩から見てくるような姿など、イスラムの戦闘員たちの姿を彷彿とさせます。
ハンス・ジマーによる音楽も、どこにもない新しい音楽を創り出していると言っていますが、そのベースにしているのは中東の独特な雰囲気を意識した音楽のような気がします。

ヴィルヌーヴは15歳で原作のDUNEに出会い、その後の作品作りにもかなりの影響を受けたと語っています。原作に心酔している監督が、原作が持つ背景を捨てると考える方が無理があると思います。

第二次世界大戦以降、中東の諸問題はとても複雑ですが、DUNEにおいてハルコンネン家がアトレイデス家を侵略する様子は、1979年に起こったソ連によるアフガニスタン侵攻に思えてならないのです。(小説版はアフガニスタン侵攻より前に出版されている)

さらに、ハルコンネン家の登場シーンでは、雨が降り注いでいました。これもソ連の「氷の国」を意識したヒントなのではないかと思います。

ソ連とイスラム教の戦いを描いた物語だと位置づければ、DUNEとは、宗教と共産主義の争い、つまりジハード(聖戦)をテーマにした物語とも考えられそうです。
劇中に一瞬登場する人々が手に持つ書物は、コーランを想起させるのも理由の一つですね。

キャメロンが言うように、フレメンがアフガニスタンの軍事的指導者、今で言うとタリバンにあたると仮定し、アトレイデス家がアフガニスタンに軍事介入していたアメリカなのでは、という仮説も出そうですが、この仮説はヴィルヌーヴ自身が、白人の救世主映画ではないと否定しているため、どうやらアトレイデス家=アメリカの説は消えそうですね。

タリバンがアフガニスタンの首都を制圧し、米軍も完全撤退したことは記憶に新しい事件です。当然、この事件の前には本作も完成していたと思いますが、中東の米軍による軍事介入はブッシュ政権時から続くことなのでアメリカとしては大きな問題の一つなのです。

アメリカSF映画にとって、ベトナム戦争や9.11のテロ事件、ブッシュ政権、トランプ政権の負の遺産といった歴史的な事件はメタファーとして隠されることが多いのです。

ヴィルヌーヴは、本作のテーマは「適応能力」だと語っています。
2021年になり世界はさらに混沌を極めています。
環境問題がより深刻になり、中東を軸にしたあらゆる問題も解決する兆しはない。世界的パンデミックも起こり、2020年代以降混沌を深めてきた世界に対して、人間はどのように適応していくのか、ポールたちを通して生きぬく術と、その疑問を観る者に問いかけているような気がしてならないのです。

まとめ

スパイスとは、現代に置き換えると、麻薬や半導体のメタファーだと推測する意見も見られて、その考え方も面白いですよね。ヴィルヌーヴ作品は「説明の少なさ」からあらゆる議論ができるところも魅力の一つだと思っています。

現代ハリウッドSFの第一人者であるスティーブン・スピルバーグやジェームズ・キャメロンは、SFこそ現実の問題を映画と重ね警鐘することで、人間とは何かを浮かび上がらせることがきる最適な映画ジャンルであると常々公言しています。

いま、次世代のSFの第一人者となったヴィルヌーヴは本作を通じて伝えたかったことは何なのか。そこを考えてこそ映画を観る醍醐味でもありますよね。
ヴィルヌーヴがなんとなくカッコイイ映像を作りたいというレベルで本作「DUNE」を作ったわけではないと、確信を持って言えそうです。

今後のSF映画史に多大な影響を与えるであろう本作は、ずっと心に留めておきたい一作であり、次回作も本当に楽しみです。

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